前稿(1)においてこの事件の原因を探ることの困難なこと、少年の意識(心)には一連の流れがあること、その意識(心)の流れを読み解くためには5つの鍵が必要なことを記述しました。

問題は「5つの鍵」とはどのような鍵なのかということです。

大きく括って以下の様な「鍵言葉」が考えられます。

(1)蓄積されたコロナ禍のストレス

(2)切り離された他者の存在(他者感覚の喪失)

(3)人を殺すという重大行為を働くことへの中和化(正当化)

(4)希薄化した自己制御力

(5)最近の事件をベースにした殺害手法の学習

 これら5つの鍵言葉の下に、さらに複数の「下位の鍵言葉」が連なります。つまりこの事件は樹木の枝葉(系統樹)」のような連なりで理解せねばなりません。そして結果として前稿(1)で述べたような下記の「心象風景(言葉)」の連なりが産み出されてくるのです。

➀事件前:

   (誰にも言えない表現できないチクチクとした苛立ち、将来への不安の蓄積)

   あ~面白くない。

   良い子の仮面を被り続けることには、もう疲れた。

   先生もみんなもオレを小馬鹿にしている(見下している、仲間はずれにしている)

   爆発したい、みーんな捨ててしまいたい。

②刺す前:

   誰でも(別に伊藤君でなくとも)良かった。

③伊東君と廊下で向き合って:

   (いくつかの言葉のやり取りを経て)

   この野郎、オレをなめてるのか!

   やってやろうじゃないか(刺すこと自体が目的化)!

④刺した直後:

   おれをなめるとこうなるのだ。

   まあたいしたことないだろう。

⑤一定時間を置いて:

   エー、たいへんだ。

   どうしてこんなことしたんだろう。

   死ぬなんて思ってなかった。

⑥そして今:

   (何とはなく)ホッとしている。

  最終的な想い=心象風景(「ホッとしている」)を理解するには5つの鍵言葉を理解する必要があります。この事件の原因は単純なワンフレーズでは語りきれないのです(複合汚染的原因)。

(文責 清永奈穂                 2021/12/09)

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