コロナウイルス禍を軸として時代の移り変わりを診るとコロナウイルス禍前の時代(プレ・コロナ)、コロナウイルス禍まっただ中の時代(ミッドあるいはウイズ・コロナ)、そしてコロナウイルス禍後の時代(ポスト・コロナ)に分けられる。
これから先の子ども見守りボランティアはどう変わり、どこへ向かうのか。上記の3つの時代を外してのこの点の検討はあり得ない。
 
1.プレ・コロナの時代
1)大阪教育大学附属池田小学校事件ショック
 子どもの安全見守り地域ボランティアは、2002年の大阪教育大学附属池田小学校事件で「子どもの安全を政策的社会的にいかに作るか」の下地が作られ、その後2006年広島市栃木県日光市(旧今市市)で下校途中の小学生が殺害されるという事件を契機に目に見えて急激に増加した(下図参照。2020年警察庁発表資料)。
以後この流れの基本的下地(潜在的始まり)となった大阪教育大学附属池田小学校事件を以後「大教大ショック」と呼び、日光市と広島市で下校途中の少女殺害事件が起こった2,006年を以降「日・広見守りボランティア元年」呼びたい。
2)1999年の安全革命
2006年までも1990年代末からの犯罪発生量の増加に対抗し、地域防犯ボランティアによる安全確保活動は成されていた。中心となったのは、1960年代の警察のCR活動(コミュニテイ・リレーション アクティビティ)から始まり、警察OBが主導する地域防犯協会が担い、それを纏めた全国防犯協会連合会であった。
これに対し2006年以降は、地域防犯ボランティアに加え「子どもの安全=見守り」を主たる活動目標とするボランティアが大部分を占めることになった。
その背景には、1999年~2000年にかけての地方自治法の改正があり、地方自治体(基礎的自治体)も「子どもを含む市民生活の安全確保」に積極的に取り組む、その一貫として地域ボランティアを育成せねばならなくなったという事情があった。それまでは、犯罪からの安全は警察に任せておけば良いとされたものが、自治体も本腰を入れて住民主体に「市民、特に子どもの安全確保」に取り組まねばいけない、と言うことになったわけだ。まさに1999年の自治法改正は市民安全の「革命宣言」であった。
ここに警察と自治体という両輪の下、防犯+子ども見守りボランティア(以下防犯・子ども見守りボランティア)が急速に増加してゆく「力」が産み出されて行った。しかし旧来からの歴史的流れから言って、車の両輪と言いながら特にボランティア組織増加への警察の力(政策的意図的指導)は大きかった。
 
3)ボランティア組織増加傾向の横ばい化と減少の兆し
こうして2006年を元年とする防犯・子ども見守りボランティア組織の増加傾向は指数曲線的に急増した。しかしその勢いも2009年(2006年から3年後)には、漸増し始め、その後多少の上下動はあるが横ばい傾向を辿り(頭打ち)、2017年以降は減少傾向を辿っている。最近の2019年には「3年連続の減少(朝日新聞記事)」となった。
 
4)原因と見なされる高齢化問題
 最近になってなぜ防犯・子ども見守りボランティア組織は、減少傾向を示し始めたか。
 一番大きな理由として警察庁は、ボランティア活動に参加しようという方々の「高齢化問題」の大きいことをあげる。確かにボランティア対象の各種調査でも参加者自身「高齢化」問題をあげる(「長野・新潟・京都防犯ボランティア参加者の意識調査2018~2019」、(株)ステップ総合研究所調査)。
 例えば上記のボランティアの方々に活動に際しての問題を複数選択方式で問うたところ、「若い人(20~50歳代)がなかなか参加しない・後継者がいない(38.3%)」が最も多く、「運営資金が不足(11.9%)」「できたら次の人に譲りたい(10.0%)」「仲間がいない(6.7%)」などをあげた。
2019年現在時点で70才の方であれば、防犯・子ども見守りボランティア活動へ参加した年齢を計算してみると、ボランティアが盛んとなり始めた2006年頃に参加したとすると、その時の年齢は57才。人生をおう歌していた年齢だったと診られる。活力にあふれ、社会貢献としての子どもの見守り活動へ参加しようという熱意も高かった。しかし今や70才。若い人が参加せず、後継者の居ない状況にあっては、年を重ねてのボランティア活動は息切れもしようし組織を閉じよう、となることは十分理解できる。
おそらく今後防犯・子ども見守りボランティア組織とそれへの参加者は、何らかの画期的対応策を図らなければ、さらに減少し続けるであろう。
 
5)なぜ若者・成人は防犯・子ども見守りボランティアに参加しないか
問題は、2006年当時積極的に防犯・子ども見守り活動へ飛び込み参加した20~40歳代の方々が、なぜ今参加しようとしないかである。
高齢化が進み、20~40歳代層の人間が少なくなったとは言え、まだまだ都市部を中心に20~50歳代層には厚いものがある。災害の続くわが国では、ボランティアとして危機克復に貢献しようという意識には高いものがある。そこには実際多くの若者が集まっている。しかし防犯・子ども見守りボランティア活動への20~40歳代の参加者と組織は減少の兆しを示し始めている。単に「高齢化」だけの問題ではない、何かがあると思わねばならない。
 
5)今後の防犯・子ども見守りボランティア活動の減少を止める有効な手立て
 防犯・子ども見守りボランティア活動の減少原因は「高齢化」にはない。私は、高齢化は表に出た原因で、真の原因はボランティア活動の内部に奥深く隠れていると診断する。
実際20~40歳代の若者・成人は様々な災害ボランティアとして参加し活躍している。もし「高齢化」に原因があるなら、こうした危機災害へのボランティアの参加者も減少しているはずだ。
 この活躍が防犯・子ども見守りボランティア活動に向けられないのは、これまでボランティア育成に関わってきた私自身の深い反省を込めていうなら、防犯・子ども見守りボランティアに求めてきた活動内容に原因がある、とみなければならない。内容に若者や成人が関心やヤル気を起こさせるようなものであったなら、彼らの自発的参加が望めたはずだ。
 高齢化に原因を求め、足下の現実を見ない判断を続けている限り、若者や成人の積極的参加は、今後も望めないであろう。
 
 防犯・子ども見守りボランティア活動は、プレ・コロナの時代の終わり、ミッド・コロナに入る直前、そういう問題と曲がり角に向かいあい、緩やかに減少傾向を辿り始めていたと結論付けたい。
(文責  清永賢二 清永奈穂          2020・07・14)