上の図を見てもらいたい。

 愛知県下で1982年に作られた「学童の通学路の安全確保」を目的とした「防犯モデル道路」の犯罪発生状況だ。設置年により3本の折れ線が引かれている。見事な右肩下がりだ。一方右肩上がりの折れ線は,当時の愛知県全体の犯罪増加傾向である。

 愛知県全体では犯罪(警察認知)が大幅に増加しながら、設置されたモデル道路及びその周辺では劇的に減少している。暗数調査でも発生は確実に減っている。

 このモデル道路は警察庁が日本で初めて行った「環境設計による犯罪防止研究」(伊藤滋東大教授・当時)の中でマヌ建築設計研究所の故高野公男所長(天才)の提案結果を愛知県警察と清永賢二が共に受け、県下で進めた「犯罪からの通学路の安全確保」のためのコミュニテイ道路づくりだった。

 警察庁も文部科学省も忘れてしまったのか。

 いま進められている「通学路の安全確保」の取り組みを見て思うことは、これは「もう一度見直さねばならない」取り組みだったと痛切に思う。

 この取り組みは、愛知県下の自治体で昭和56(1981)年、愛知県名古屋市守山区で初めて設置された。その後の昭和62(1987)年には、県下全市町で31地区が設置されるまでになった。

 この防犯モデル道路の効果測定を清永賢二は、国土庁(当時)の昭和61年「定住推進調査」で行った。それは防犯モデル道路の設置を愛知県警に積極的に持ち込んだ者の「責任感」に支えられた作業であった。

 おそらくこの報告書(「住民の安全確保を目的としたコミュニテイモデル道路の効果と問題点の調査」 昭和61年度国土庁定住推進構想推進調査)の完全版は、今になれば、清永賢二が特別顧問を務める(株)ステップ総合研究所の図書室に1冊ボロボロとなって残っているに過ぎないのではないか。

 警察庁も所有してはいないだろう。あるとすれば国会図書館以外にない。

 この調査は、凄まじい調査であった(という以外はない)。

 清永賢二は、あらゆるデータ(警察統計、住民意識、現地実査、犯罪社会学者・建築学者・心理学者・新聞記者等による関係者インタビュー、NHK映像等)を集め(清永はこの搔き集め手法をフランス社会学で云うフアイア・リサーチと呼んだ)、効果測定と効果を生み出した要因の因果分析を行なった。その結果を当時イギリス内務省(HMO)の研究部門にいたPatricia MAYHEWに示したところ、非常に驚いた(beautifulと呼んだ!)ことを清永は鮮明に覚えている(その縁があって清永は、後の1999年にロンドン大学のLSEで研究生活を送った)。

 子どもたちの通学路の安全確保の重要性が強調される今日、もう一度この「防犯モデル道路」を浮き上がらせてみたい。

(文責 清永賢二 清永奈穂 砂川優子 八手紘子 林成子  2019・09・10)