あの事件を風化させないため大変ありがたいニュースです。そうした思いと同時にある種の失望感にとらわれました。ニュースがニュースではないという思いです。

 ある新聞を読みました。その記事と並んで載っている1枚の写真を見ました。そこには学校に侵入してきた不審者(犯罪者)に複数の先生方が「刺股(さすまた)」を揃えて廊下のスミに追い詰めている写真がありました。それも写真(あまり鮮明でない)で見る限り男性ばかりのようでした(小学校では多くの教員が女性)。突き出している刺股の棒の数を数えると6本以上でした。

 この写真を見た瞬間、この新聞の記事を書いた記者に「あなたは何をあの事件から学んできたのか」という思いに駆られました。この写真を掲載したと言うことは、ここから学ぶべき事があると思ってのことだと思います。しかし犯罪行動生態学的視線からすると、この写真から学ぶべきことは少ない、むしろ皮肉にも学校安全確保の教育現場に問題を提起しているのではないかとさえ思いました。

 この思いの背景には複数の理由があります。その理由は、前にも指摘しましたが、何度でも指摘する価値があるものと思いますのでより細かく記述しておきます。

 最も大きい理由は、不審者(犯罪者)の侵入(校内での進行・走り周り)を止めるのに先生方が「刺股(さすまた)」で向かってでは止めることは十分にはできないということです(絶対出来ない、とは言いません。「安全」には絶対はありません)。記者の皆さんそのことを十分学んだはずなのに、それをまだニュースに!という空しい思いです。

 刺股は、基本的に暴れ回る不審者(犯罪者)を「取り押さえる」、即ち「力づくで制圧」するには十分な効果を発揮します。だから警察は「取り押さえる」目的で刺股を用意しています。犯罪者をそこに「止める」「留める」ではりません。「取り押さえる(制圧)」と「止める(停止」では随分と異なります。

 「取り押さえる」は、江戸時代以来の捕り手(捕縛者=警察官)の歴史です。実際、川﨑登戸事件では、駆けつけた警察官は、その手に「刺股」を握りしめていたという記憶(写真)があります。この刺股で暴れ回る不審者(犯罪者)を押さえ制圧するのには「かなりの力」と「やり方(テクニック)」を必要とします。この「やり方」を知らずに立ち向かっても期待したほどの制圧効果(取り押さえ)は期待できないでしょう。どうした「やり方」か。

➀江戸時代以来の刺股には、筆者が手にして見た限りU字型の先端部分のU字部分に「着物など」を引っかけ引きずり倒すあるいは動きを制圧する(痛い思いをさせ勝手な動きをさせない)「突起物」がついていました。しかし今日学校などで先生方が手にしている多くの刺股には、そうした突起物がついていません。引きずり倒し制圧することがむつかしいのです。

②そこでどうするか。U字内の空間(2本の棒で作る半円状の股の間)に侵入者を「取り込み(挟み込み)」かってな動きを制圧するという方法が取られます。しかし1度実際にこの方法で動き回り暴れ回る不審者(に扮した屈強な先生)を取り押さえる試みをしてみて下さい。非常に難しい。素人ではほとんどできないと言い切って良いでしょう。相手は(場合によってはドキドキする刃物を持って)暴れ回っているのですよ。力学的に言うならUの字の先端を両手でもたれ「クイッと簡単にひねり取られ」逆にバンバンと殴られてしまうのが落ちです。

③仮にU字内に取り込むことができたとします。それでどうするか。侵入者はUの字内ではげしく体を動かしそこから逃れでようとしていることは間違いありません。そこでその行動を停めるには、刺股で床あるいは壁に「差し止める」ことになります。今日の刺股では、最終的に「(床や壁に)差し止める」のです。そうしなければ暴れ回る行動を制圧することはできません。

④しかし1本の刺股でそれが出来るか。私たちは実際に学校でやってみました。侵入者を確実に止めるには、最低でも侵入者の両脇から2本の刺股で「体をはさみ止める」、あるいは理想的に言うなら両脇と正面からの3本で「釘ずけ」にせねばUの字内に挟み込み侵入行動を止めることはできませんでした。しかしどうでしょう、あなたの学校では何本の刺股が用意できていますか。多くの場合、教員室に1本か2本ではないでしょうか。写真にあるような6本の刺股を備えている学校はありますか?第1、刺股をすぐに持ってくるほど普段から身近に準備していますか?教員室に置いている大事な大事な1本の刺股を取りに行き、それだけで喘ぎながら帰ってくるまで何分かかります?1度刺股持って全力で100メートル走ってみてください。

⑤それなら刺股などより雑巾のモップ棒あるいは野球のバットなどを身近に置いておき、力ずくで振り回し立ち向かった方が良いでしょう。しかしこれでは女性は無理だ、力が弱い。

⑤ともかく、凶器を持った侵入者と刺股1本を持って正対し阻止するには、本当に死ぬ覚悟の狂気に駆られたような行動が必要になります(川崎登戸事件目撃者)。実際に2000年(牛刀を持った少年による西鉄バスジャック事件発生年)に元犯罪者に牛刀を握りしめて攻撃行動のポーズを取ってもらい(その時、元犯罪者は最初ヘラヘラ笑っていましたが一瞬目が据わった。その目だけで周りの者は凍り付いて動けなくなった)怖さとはどういうことかを実体験しました(実験時の写真あり)。

⑥それではどうするか。すでに財団法人全国防犯協会連合会のニュースに連続して詳細に書きましたが、複数の警察官や元犯罪者さらには先生方も効果を認めた「竹ぼうき」対応を強く勧めたいと思います(詳しくは、上記協会ニュースを一読してください。元の原稿入手を望む方はメールで当研究所に申し込んで下さい)。

 確かに竹ぼうきでは侵入者の制圧(押さえ込み)は出来ません。しかし不審者のそれ以上の侵入行動を食い止め(停止効果。それ以上の侵入行動をそこで「ストップ」、即ち食い止める)には刺股よりも実戦的にはるかに大きな効果を果たします(元犯罪者は言いました。刺股は躱せるが竹ぼうきは本当に嫌だ。危ない・・)。

⑦さらにその効果は、顔目がけて鋭く絶え間なく交互に突き出される(横殴りしても良い)竹ぼうき2本があれば最高に高くなります。3本在れば両横、正面から完ぺきに押さえれます(ぜひやってみてください)。非力な女性でも十分停止出来ます。前記男の先生が6人以上も集まり刺股を突きつける必要はありません(こうした集団対応は逆に非常に問題な状況を生じさせる場合もあることに注意しておく必要がある)。

⑧警察は緊急要請があれば5分(場所によってはもう少し必要かもしれませんが、それでもどんなに長くて10分ほど)で必死になって駆けつけます(1度警察に「我が校へはどの位か」を確認して下さい)。侵入者の制圧は彼らプロに任せれば良いのです。先生方はともかく5分頑張り(5分と言いますが長いものです)、警察に連絡し、ともかくその場に侵入者を停止(釘つけ)にさせておけば良いのです。

 こうした竹ぼうき効果については、すでに上記協会ニュースや様々な講演等で述べてきており、その効果も様々な状況設定下で実験され十分確認されています(下写真参照)。

 竹ぼうきされど竹ぼうきです。竹ぼうきは安価です。1本の刺股のお金で何本でも購入でき身近に置けます。1本の高い刺股よりも身近な10本の安い竹ぼうきです。学校の安全は実際に役だってのものです。金を掛けたから確実に安全を得られる、というものではありません。刺股は素人が使う限り「お守り棒」でしかありません。

 刺股産業の方には、大変申しわけありませんが、竹ぼうきを学校の至る所に是非備えてください。刺股より遙かにその方が実戦的効果があります。普段は、子どもにその危険性(無闇に振り回しては危ない)を教えながら、それを使って校庭の掃除をしておけば良いのです。子どもは安全、学校はきれい、です。

 メデイアは、このことを是非ニュースとして喧伝して下さい。私の一つの提案です。

 もし再び池田小のような状況が生じたとき、このまま行けば私たちはまた同様なシーンを眼にする可能性の高いことを述べておきたいと思います。そうさせてはならない。そのため私たちは力一杯努力する。大阪教育大学の先生方や同附属池田小学校の先生方も素晴らしい実戦的研究のご努力をなさっております。安全は実際の危機場面で役に立ってなんぼのもの。

 この記事拡散お願いします。

(文責  清永奈穂     2020・06・08)

静岡県で教員対象に竹ぼうき効果の確認